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二人の休日
4.二人と二人 「ドルクさん、まだでしょうか…」 広場の中央に据えられた時計を見上げながら聖樹がつぶやく。 背後にはサラサラと音をたてて噴水が流れ、そばの木の上では白い小鳥が囀っている。 爽やかな一日の始まりと言った趣である。 しかしその中で聖樹は一人、そわそわとしながら立ち尽くしている。 それは、今日こそが待ちに待ったドルクとのデートの日だったからだ。 きっかけはアルバイト先のレストランで一緒に働いている女性店員の一言だった。 『聖樹君は、彼女とどこかへ行ったりしないの?』 休日ごとに他の若い店員達は彼女と何処へ行った、彼氏と何をした、という話をしている。 その中で聖樹だけは沈黙し、ただニコニコとその話を聞いているだけだった。 アルバイト先の仲間達は皆、聖樹に金髪の彼女が居る事を知っていた。 一組の男女が歩いていればそれは恋人同士だとすぐに分かる。 二人を見かけた同僚の口からその情報が皆に伝わるのに然程の時間は必要としなかった。 『例えばホラ、どこかにお買い物に行ったりとか。女の子は皆ショッピングが大好きなのよ? 私が女の子に人気のあるお店を教えてあげるから、今度のお休みに行ってきなさいよ』 聖樹はその女性店員の言葉に、やや首を傾げながらも頷いた。 ドルクが一般的な少女と同じようにショッピングを好むかどうかはさて置いて、休日に一緒に過ごすのは良いことだと思ったからだった。 休日デート計画が立てられたのは、こういういきさつであった。 「それにしても…」 聖樹は更に時計を食い入るように見つめる。 9時半を少し回り、空気が温かみを持ってくる時間。 当初の予定は泊まっている宿から二人で出かけるはずだったのに、なぜかドランに噴水広場で待つようにと言い渡された。 ドランが何故今日の外出のことを知っているのか疑問ではあったが、なんだかんだと言いながらもドルクのことを心配している良い兄のドランの言葉だ。 信用することに躊躇いは無かった。 「ドルクさん、遅いなぁ…」 聖樹の予定では9時に宿を出て同僚に教えられた店で二時間ほどショッピングを楽しみ、早めの昼食を二人で取るはずだったのだが。 しかしいきなり予定変更となりそうなことに少し不安を感じてしまうのだった。 「お…おまたせ…」 戸惑いの響きを持ったその声に振り返り、その姿を見て言葉を失った。 柔らかい印象の白いブラウスに、茶色のベスト。 ブラウスの襟元には赤いリボンが結ばれて、普段のドルクの着ている服とはまるで印象が違う。 何より一番聖樹を驚かせたのはドルクが履いているのがレースのついた緑色のロングスカートだったことだ。 「ド…ドルクさん…?その格好は…」 聖樹が戸惑いがちに口を開くと、ドルクは顔を真っ赤にして下を向いた。 「やっぱり…似合わない…?よ…ね」 うつむく顔に金の髪がサラリと掛かる。 そのせいで表情は見えなくなったが、ドルクが照れているのはすぐに分かった。 「すごく、似合ってますよ!あんまり素敵なんで驚いてしまっただけです」 言いながら、聖樹は手を伸ばしてドルクの髪をかき上げる。 そしてその髪にそっと赤い薔薇を挿した。 驚いて顔を上げ、髪に手をやるドルクに聖樹は微笑んで言った。 「今日は私の誘いを受けてくださってありがとうございます」 「あ…いや、私の方こそ誘ってくれてありがとう。…聖樹」 そんな言葉を交わしあい、二人は笑顔を向け合った。 「なぁなぁ、何て言ってる?」 そんな微笑ましい二人の様子を見守る影が二つ。 言うまでも無く、ドランとドードであった。 「…この距離じゃちょっと、聞き取れないわね」 草の茂みに身を潜めた二人は、デート中の二人に気付かれないようにヒソヒソと囁きあう。 今日は仕事が休みのドランといつも暇を持て余しているドード。 そんな二人がこんな楽しいイベントを見逃せるはずがない。 二人は今日一日、デートを楽しむ聖樹とドルクを付回してその様子を観察するという悪趣味極まりない予定を立てていた。 「遠くの音を聞く魔法でもあればいいのになー」 「全くね。…お母様に聞いてみれば良かったわね」 そんな会話をしながらも二人は聖樹とドルクを見つめていた。 その視線の集まる中で若い恋人たちはやや戸惑いがちに手を繋ごうと手を伸ばす。 俄然、それを見つめる二人のテンションも上昇する。 「やるわね、聖樹!」 「おお…あのドルクが…!」 二人が思わず身を乗り出した瞬間、聖樹に釘付けになっていたはずのドルクの視線が草陰に隠れる二人の方へと向いた。 「ドルクさん?どうかしましたか?」 突然何かに反応し、植え込みを凝視するドルクに聖樹が恐る恐る声をかけた。 勇気を出して握ろうとした手が宛ても無く宙に浮いて心細い。 ドルクは自分と手を繋ぐのが嫌だったのだろうか? 聖樹の心の中に不安が広がった。 「あ…いや、何でもない」 ドルクはそう言って聖樹の方を向いて微笑んだが、その表情は未だどこか硬いものを感じさせる。 一体何があったのだろう?ドルクのように気配を感じ取ることの出来ない聖樹には想像力を働かせることくらいしか出来ない。 「ちょっと気になっただけだから。…何でもない」 「…そうですか」 そのドルクの硬い笑顔を気にしないように聖樹は柔和な微笑みを浮かべた。 そして今度こそと勇気を振り絞り、ドルクの白い手を握った。 「それじゃあ、行きましょうか」 「お…重い、ドラン…」 聖樹とドルクが手を繋ぎあって広場から歩き出すのを確認すると、漸くドランはドードを押さえつけていた手を退けた。 起き上がったドードのあちこちから小さな葉や細かな土がパラパラと落ちる。 「乱暴すぎんだよドランは…」 「ああでもしなかったらドルクに見つかってたんだから、仕方ないでしょ」 「分かってるけどさぁ…」 体中から葉と土を払い落としながらドードは口を尖らせてブツブツと呟く。 しかしドランはそんな弟のことはお構いなしに草陰からそっと頭を覗かせた。 「ドルクは厄介よね…勘が鋭すぎるのよ」 ターゲットの二人の影は広場を横切って商店街の方へと向かっているようだった。 素直に後を追いかけてはまたすぐにドルクに感づかれてしまうだろう。 何か、作戦を考えるべきかもしれない。 「なぁ、俺良い作戦思いついたんだけど」 「は?」 ドランは視線の端で聖樹とドルクの姿を捉えながら僅かにドードの方へ頭を傾けた。 ドードの顔には何か楽しい悪戯を思いついた時の様な、意味ありげな笑みが浮かんでいる。 「……変なこと言ったら置いていくわよ?」 「大丈夫!俺に任せろって!」 胸を張って言うドードの顔を見ながらドランは心の中でほんの少しため息を吐いた。 (こういうときのドードの作戦って意外とマトモなのよね) ミニあとがき 4話目にして漸くデート当日となりました。 っていうか…短編のつもりが全然…長い…orz ホント私って纏め能力が無いなぁウフフフ… サブタイトルの「二人と二人」は勿論「聖樹とドルク」と「ドランとドード」の二つの二人組のことです。 |