スパの意味を知る 1*砂漠から雪国へ 『スパ』 温泉やサウナ、リラクゼーション施設のことを指す。 「おい、レプリカ!お前今何処に居る?」 砂漠のただなかで。唐突に、アッシュが呟いた。 不審極まりないこの言動だが、後ろを歩く『漆黒の翼』の三人にとっては最早おなじみの行動と化している。 彼は時々、やることが無くなると『ナタリアはどうしてるかな・・・』などと呟いて(本人は独り言のつもりらしい)おもむろに彼自身の分身と連絡をとりだしたりすることがあった。 それで道行く人々に妙な目で見られることは日常茶飯事だが、今日歩いているこの砂漠では人目を気にすることも必要ない。 『漆黒の翼』は生暖かい目でアッシュを見守った。彼の毎度おなじみの行動では、この後直ぐにレプリカに対する罵倒が始まるのだが・・・ 「・・・ケテルブルクのホテル!?何考えてやがるんだ!!お前たち、そんな事してる場合なのか!?」 今回の叫びはいつもと少し違っていた。 ケテルブルクのホテル?そんな高級な所に居るというのか、向こうの連中は? 『漆黒の翼』は疲れきった顔を見合わせた。 こっちと向こうでは随分と経済状況に差があるらしい。何と言ってもこちらは心もとない路銀を節約するために砂漠越えを決意したばかりなのだ。 今までにも数多くの修羅場を潜り抜けてきたらしいアッシュは全く持って堪えていないらしかったが、『漆黒の翼』の面々、特に女性のノワールはこの砂漠越えで随分と疲弊していた。 「羨ましいもんだねぇ・・・こっちはこんな砂漠を徒歩で横断してるって言うのに。向こうは高級ホテルで満足・極楽・太平楽、て訳かい?」 呟くノワールをアッシュがちらりと見やる。 どうやらこう見えて彼もそれなりに悪かったとは思っているらしい。 「・・・何!?ふざけるな!どうして俺がお前たちと馴れ合わなければならない?」 唐突に叫ぶアッシュ。どうやら、ルークがアッシュもホテルに来るように、と誘ったらしい。 一体どういうつもりなのか。こっちはケテルブルクどころか砂漠のど真ん中を横断中なのだ。とてもじゃないがそんな遠くには行けそうにない―― しかしもしかしたら、という思いを込めて、『漆黒の翼』の三人はアッシュにじっと熱い視線を送った。こんなところにこれ以上居たくない。快適なホテルに行きたい――と。 「・・・っ」 どうやら伝わったらしい。アッシュの表情が少し、変わった。 『漆黒の翼』はホテルやカジノで楽しみたいという思いだったが、アッシュにしても久しぶりにナタリアに会いたいのだろう。どうやら誘いに乗りたいらしかったが、どう答えて良いのか判らない様だった。 「あー・・・だが、俺は今砂漠に居るんだぞ?どうやってそこまで行けって言うんだ?」 砂漠のど真ん中で。立ち止まったまま独り言を続ける。 大分口調が柔らかになって、誘いに乗りたいというのが雰囲気で先方に伝わったらしい。 次にアッシュが叫んだ言葉に、『漆黒の翼』の三人は思わず万歳をしたくなった。 「アルビオール!?今から来るつもりか!?」 どうやらオアシスで待ち合わせをするつもりらしい。 ノエルに導かれてやってきたケテルブルクの高級ホテル。 そのロビーで、ナタリアが一人、待っていた。 途端にアッシュの表情が変わる。どうやらルークではなくナタリアが迎えに来たのは、ジェイドの入れ知恵(?)らしい。 「良かったですわ・・・アッシュがちゃんと来て下さって。」 「・・・ナタリア・・・まさか、お前が出迎えに来るとはな・・・」 なるだけ冷静を装うが、どうしても頬が熱くなる。 「しかし、こんなところに泊まっているとはな。そっちのパーティはそんなに金が余っているのか?」 そうは言うが、実のところを言うとルーク一行のパーティには一国の王女が一人、貴族が二人、更にはマルクト国王の親友まで居るのだ。別に高級ホテルに泊まっていたとしても不自然ではない。 「そういうわけでは無いのですけどね。実は、マルクト国王の御厚意ですの。」 「何・・・?」 眉を顰めるアッシュににっこりと微笑むと、ナタリアは彼の手を取った。 「とにかく、何も言わずについて来てくださいまし。私もアッシュが来るのを楽しみにしていましたのよ?」 その言葉と微笑を見ただけで、事態の説明を求める気持ちは全く消えてしまったのだった。 |